1970年代前半のブリティッシュ・フォークは素晴らしい。
あいつらには雰囲気がある。 美しい音の響きがある。
そして1980年代の英国にも同じ香りを放つ芸人はいたのです。
どれもサウンドはフォークとはいえないけれども
ヤツらにも刹那的な美しさがあって いい雰囲気芸人としては一級品です。
今回はすべてベスト盤でお届けします。



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EYELESS IN GAZA
「KODAK GHOSTS RUN AMOK
chronological singles etc 1980-1986」 (1987)
英 CHERRY RED BRED 73 (LP)
 A1 Kodak Ghosts Run Amok
  2 Invisibility
  3 No Noise
  4 Others
  5 Pencil Sketch
  6 Veil Like Calm
  7 Bright Play Of Eyes
 B1 New Risen
  2 No Perfect Stranger
  3 Sun Bursts In
  4 Welcome Now
  5 New Love Here
  6 Back From The Rains

伏し目がちの少女。 髪を飾る木の実や葉は朽ち果てる前の一瞬の輝き。
君は森の精なのかい? あるいは昨日の夢に現れたゴーストだったのかも知れない。
アイレス・イン・ギャザ・・・その美しい一瞬を閉じ込めた音は永遠のようで一瞬。
音は次の瞬間もう存在しない。 そして君は消え木々も枯れ落ちた。
・・・とおしゃれな書き出しにしてみましたが・・・どうだろう? この文章。

アイレス・イン・ギャザは文学青年風のピート・ベッカー (Pete Becker) と
いかにものニュー・ウェーブな風貌のマーティン・ベイツ (Martyn Bates) の男2人組。

デビュー・シングルのA1から最後のシングルB6まで発表年代順に楽曲が並んでおり
彼らの成長ぶり(ゲーノー界にどんどん侵されて行く様?)がわかる流れになってます。

初期〜中期のA面ではチープなキーボードやエレキ・ギターをバックに
マーティン・ベイツのややヒステリックなヴォーカルが乗っかるというスタイルです。
このA面の音はとても美しいです。 悲しげなメロディー・ラインのせいもありますが
これは音の構成がどうという事では説明できない儚い雰囲気があるのですよ。
A1〜A3なんて一瞬ダメダメ・エレ・ポップなのか?と思ってしまうサウンドだけどね。

この雰囲気っていうのはどう説明したらいいかムツカシーのですが
音楽にいい雰囲気を求めている人であればわかるでしょ?
1970年代前半の音の雰囲気がサイケの狂騒の後の虚しさだとしたら
1980年代前半にはパンクの後の寂しさみたいな物があるのです・・・たぶん。

中期〜後期のB面には何かふっきれたかのような疾走感のある爽やかさを持った
ネオ・アコースティック・ナンバーB4 B5が収録されています。
この2曲はすっげーいい曲ではあるのですが雰囲気という点ではA面の勝ちですね。

でも やっぱり出だしの文章どうなんだろう・・・決して渚十吾のパクりではありません。



Wanderlust.jpg
IN EMBRACE 「WANDERLUST (1982-1984)」 (1986)
英 GLASS GLEX 102 (LP)
 A1 Writing Pictures
  2 Your Heaven Scent
  3 Emotional Punchbags
  4 Trying Too Hard
  5 Sun Brings Smiles
  6 Play In Light
  7 Tears Turn Fresh
 B1 Fluid
  2 Love Among The Crumbs
  3 The Living Daylights
  4 Shadow And Substance
  5 Under The Skin
  6 Pine Needles

1980年代初頭に活躍していつの間にか消えていったイン・エンブレイス。
活躍なんかしてないか。 誰も知らないよね こんなグループ。
実は僕もこのベスト盤しか所有していないので詳しくは知らないのです。
その昔渋谷のZESTで購入したんだっけなぁ。 ん?CSV渋谷だったかな?

ジャケットで体育座りを決め込んでいるカリー・ナイト (Cary Knight) というヤツの
ソロ・プロジェクトの色合いが濃いグループで 当然このオヤジがヴォーカル。
多少鼻詰まりぎみで いやらしい感じの節回しのある歌声に
拒否反応を示す人もいるかもね。 そう・・・マーク・アーモンドみたいな感じかな。
1970年代のじゃ無くてソフト・セルの方のマーク・アーモンドですよ。

このアルバム 音の感触がアイレス・イン・ギャザに似ていい雰囲気ですよ。
カシオトーンで作ったような一瞬ダメダメ・エレ・ポップA6の収録もあるしねぇ。
もちろんこのA6はダメダメではありません。 とても美しい響きがあります。

全体的には実験的な曲と可愛いアコースティック・タッチの曲が同居する内容で
僕のお気に入りはジャカジャカ・アコギに始まり間奏でパーカッションが爆発して
死者12名行方不明5名みたいなボサノバ・ナンバーA5です。

アイレス・イン・ギャザが秋枯れニュー・ウェーブだとしたら
イン・エンブレイスは陽溜りネオ・アコースティックといった所でしょうか。
しかし実験的な曲も多いので注意が必要ではあります。
B面ラストの遊び溝には気色の悪い女の笑い声が延々と入っているしねぇ。



GoldMineTrash.jpg GoldMineTrashBack.jpg
FELT 「GOLD MINE TRASH」 (1987)
英 CHERRY RED BRED 79 (LP)
 A1 Something Sends Me ToSleep
  2 Trails Of Colour Dissolve
  3 Dismantled King Is Off The Throne
  4 Penelope Tree
  5 Sunlight Bathed The Golden Glow
 B1 Crystal Ball
  2 The Day The Rain Came Down
  3 Fortune
  4 Vasco Da Gama
  5 Primitive Painters

ああチェリー・レッド チェリー・レッド 素晴らしきかなチェリー・レッド・レーベル。
ヴァーティゴやカリスマやネオンやドーンが1970年代英国を象徴するレーベルなら
1980年代にはラフ・トレードや4ADやクリエイションやチェリー・レッドがあるのさ!

フェルトはヴォーカルのローレンスくんを中心に活動し メンバー交代を繰り返し
チェリー・レッド〜クリエイション〜エルとレーベルを渡り歩いた末解散しました。
このベスト盤は1981年から1985年までのチェリー・レッド時代の物です。

A3 A5はブランコ・イ・ネグロ・レーベルのために録音されたデモ音源ですが
彼らは結局ブランコ・イ・ネグロには移籍できずクリエイションへ移籍しました。
でもこの2曲って 「The Strange Idols Pattern And Other Short Stories」 収録の
オリジナル・ヴァージョンとどこがどう違うのでしょうね。
まあ僕は相変わらず聴き比べていないのですけど。

フェルトの奏でる音楽はシンプルで飾りの無いネオ・アコースティックです。
エレキ・ギターの美しいフレーズのさざ波の中を語り系のヴォーカルが泳ぎます。
このギターとヴォーカルの絡みが哀しみを煽る響きを持っていて
元気でリズミカルな曲をやっても繊細で儚く今にも壊れそうな雰囲気があるのです。
フェルトには青春の痛みフォーク・ロックと名付けてあげましょう。

クリエイション移籍後はオルガンが暴れまくるより明るいサウンドに変化しますが
儚い感覚を維持するためなのかヴォーカルが泣きまくっていて こちらも最高です。

なお今回とり上げた3グループ全てにジョン・A・リバースというオヤジが
プロデューサーとして登場しています。 この芸人にも注目してやって下さい。
いや彼の写真は見た事が無いのでかなりのヤングなヤツかも知れないけどね。



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