1990年代前半の英国のインディーズ・シーンを彩ったサラ・レーベル。
手作り感覚のあるシンプルなギター・ポップ・バンドが多く在籍し
7インチ・シングルにこだわったリリース体制やジャケット意匠など レーベル自体の活動も
手作り感覚に溢れていましたが ある時期その「手作り感覚」に吐き気をもよおしてしまい
所有していたアルバムやシングル盤など けっこうな枚数を処分してしまいました。
ところが 吐き気をもよおしながらも手放せなかった作品を ふっと聴き返してみたら
かなり良くって 当時イヤになった「手作り感覚」は「良い雰囲気」へと変わり
 処分した作品も買い戻してまた聴き直してみてもいいかな?くらいの勢いなのです。
そんなんで今回は手元に残っているサラの作品全14枚一挙レヴューでどうだ!


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「SHADOW FACTORY the sarah compilation」 (1989)
英 SARAH 587 (LP)
A1 ANOTHER SUNNY DAY
   I'm In Love With A Girl Who Doesn't Know I Exist

 2 THE SEA URCHINS Please Rain Fall
 3 14 ICED BEARS Sure To See
 4 THE ORCHIDS
   Underneath The Window, Underneath The Sink
 5 THE SEA URCHINS Sullen Eyes
 6 THE POPPYHEADS Dreamabout
 7 THE ORCHIDS Give Me Some Peppermint Freedom

 8 THE SPRINGFIELDS Are We Gonna Be Alright ?
 B1 THE SEA URCHINS Pristine Christne
  2 THE ORCHIDS Tiny Words
  3 THE FIELD MICE Fabulous Friend
  4 14 ICED BEARS Come Get Me
  5 THE SPRINGFIELDS Sunflower
  6 THE ORCHIDS Apologies
  7 THE FIELD MICE The Last Letter
  8 THE GOLDEN DAWN My Secret World

初期のサラはCD時代に逆行するかのように7インチ・シングルのみのリリースという体制で活動。
この「シャドウ・ファクトリー」はそんな7インチ・シングル時代のサラの最初のオムニバス盤になります。
まあ後にLPやCDもリリースする事になるし このオムニバス盤自体がLPなのですけどね。

オムニバス盤ってゆーのは曲によってテンションが違ったり 各バンドのサウンドの違いがあるので
好きな曲をピンポイントで聴くって事はあっても 通して聴く事などほとんどありません。
本作は全体を通しても 1曲1曲を抜き取っても レーベル初期の瑞々しさが溢れていて感動的で
サウンドも各バンドが似たテイストを放ち統一感があり通し聴きしやすい名作オムニバス盤です。

収録された曲達はどれもほんのりとサイケデリックな雰囲気を醸し出すギター・ポップ・サウンドで
これは1960年代のバンドのオムニバス盤か?と思わせてくれるレトロな香りが全体に漂っています。
1980年代の楽曲だけど 1980年代的なニュー・ウェーヴ〜ネオ・アコースティック色も無いので
1989年当時も 今現在も これからも 聴き続けられる普遍性と耐久性を備えた1枚なのです。

甘ったるい歌声で歌われる素敵なラブ・ソングのA1から 2分に満たない尺っていうのが美し過ぎるし
収録バンドの内 1960年代のバンドじゃないのか?と最も思わせるサイケデリックな雰囲気が
聴けば聴く程じわじわと効いてくるシー・アーチンズの A2 A5 B1 がまた最高です。

泣き虫ヴォーカルが泣きまくって チェリー・レッド〜クリエイションに在籍したフェルトを思わせる
オーキッズの A4 A7 B2 B6 は何だか分からないけれど聴く側も泣いてしまいそうになるし
米国バンドのスプリングフィールズの A8 B5 ではどことなくアメリカっぽい爽やかさが漂います。
スプリングフィールズは後にヴェルヴェット・クラッシュを結成するメンバーのいたバンドですね。

B3 B7 のフィールド・マイスはオーキッズと共に長きに渡りサラ・レーベルに在籍し
レーベルを代表するバンドですが 後に色々なタイプの曲をやってアレレ?って事になります。
ここではこのオムニバス盤のカラーに合ったギター・ポップ曲をやっていて良いです。
 


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「TEMPLE CLOUD a sarah compilation」 (1990)
英 SARAH 376 (LP)
A1 THE ORCHIDS Yawn
 2 THE FIELD MICE Sensitive
 3 THE WAKE Carbrain
 4 BRIGHTER I Don't Think It Matters
 5 ST. CHRISTOPHER All Of A Tremble
 6 ANOTHER SUNNY DAY Green
 7 GENTLE DESPITE Darkest Blue

 8 THE GOLDEN DAWN George Hamilton's Dead
 B1 ANOTHER SUNNY DAY You Should All Be Murdered
  2 BRIGHTER Inside Out
  3 THE FIELD MICE If You Need Someone
  4 ACTION PAINTING ! These Things Happen
  5 ST. CHRISTOPHER You Deserve More Than A Maybe
  6 THE FIELD MICE Song 6
  7 ANOTHER SUNNY DAY Can't You Tell It's True ?
  8 BRIGHTER Noah's Ark

サラが放った2枚目のオムニバス盤「テンプル・クラウド」。 レーベル初期ならではの瑞々しさは
まだあるものの 各バンドの音の違いが明確になり 1960年代バンドのオムニバス盤か?と思わせた
「シャドウ・ファクトリー」のような統一感は薄れています。 それでも相変わらず収録曲の1曲1曲が
ヒジョーに良いので とにかく良い曲大集合の素晴らしきオムニバス盤になっています。
耳に残る印象的な楽曲の収録具合いでいくと「シャドウ・ファクトリー」以上ではないでしょうか。

A1のオーキッズは出だしからオペラ歌手みたいな変な歌声とリズムボックスが入りびっくりするけれど
ゆったりと曲が進むにつれ泣き虫ヴォーカルが静かに歌い ギターのエコーと歪みが幾重にも重なり
じわりとサイケデリックな浮遊感に包まれて行くという名曲で・・・オーキッズ渾身の名曲ですねぇ。

A3のウエイクは男女ヴォーカルで 以前ファクトリーからアルバムを出していたバンドの復活劇!
ファクトリー時代の硬質なニュー・ウェーヴ風味とはまったく違う爽やかなサウンドで聴きやすいです。

セント・クリストファーのA5は サビや間奏やブリッジを単独で取り出すとバラバラなようだけど
すべてが組み合わさって1つの曲になるとスンゴい感動的な楽曲に大変身するという決定的名曲!
B5も組み合わさりの妙技がただのギター・ポップにあらず・・・でもただのギター・ポップで偉い!

A6 B1 B5 と3曲収録されたアナザー・サニー・デイも絶好調で ホント良い曲作ります。
A4 B2 B8 と3曲収録されたブライターは地味だけど穏やかな曲調でまた良いんだなぁ。
A2 B3 B6 と3曲収録されたフィールド・マイスは色々やりすぎて焦点が定まらない感じです。
疾走感のあるA2の後半の長いギター弾きまくりなんかは心地良く印象的でとても良いのだけど・・・

A7のジェントル・デスパイトは暗めのフォーク調で異色だけどアルバムの中で浮いてもいないです。
A8のゴールデン・ドーンの60Sガレージ・バンドな佇まいは前項の「シャドウ・ファクトリー」でも
炸裂していたけれど本作でも炸裂中。 B4のアクション・ペインティング!も60Sテイストですね。
 


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「GLASS ARCADE sarah records」 (1991)
英 SARAH 501 (LP)
A1 THE FIELD MICE Holland Street
 2 ANOTHER SUNNY DAY Rio
 3 ETERNAL Sleep
 4 THE SWEETEST ACHE Tell Me How It Feels
 5 THE ORCHIDS Farewell, Dear Bonnie
 6 THE SEA URCHINS A Morning Odyssey
 7 THE SPRINGFIELDS Wonder

 8 THE FIELD MICE So Said Kay
 B1 HEAVENLY I Fell In Love Last Night
  2 THE ORCHIDS Something For The Longing
  3 EVEN AS WE SPEAK Goes So Slow
  4 THE FIELD MICE Quicksilver
  5 ETERNAL Breathe
  6 ST. CHRISTOPHER Salvation
  7 EVEN AS WE SPEAK Nothing Ever Happens
  8 
THE SWEETEST ACHE If I Could Shine

サラ・レーベルの3枚目のオムニバス盤。 ここら辺になると初期からいたバンドはアルバムも出したし
色々なタイプの曲を作るようになりました。 フィールド・マイスのA1などはインスト曲で新展開ですねぇ。

前の2枚に入っておらず この「グラス・アーケイド」で初登場した エターナル スイーテスト・エイク
ヘブンリー イーブン・アズ・ウイ・スピーク の4バンドが新風を吹かせサラ新時代を感じさせてくれます。
まあ新時代と言っても最初のオムニバス盤からほんの数年しか経っていませんけどね。

エターナルの A3 B5 はシューゲイザー・サウンドで当時の流行を取り入れてみました的。
A4 B8 のスイーテスト・エイクは男女ヴォーカルで 永遠系の素敵なミディアム・ナンバーA4が感動的!
B1のヘヴンリーは女性ヴォーカルのバンドで ジャングリー・ギター・サウンドがいかにものギター・ポップ。
B3 B7 のイーブン・アズ・ウイ・スピークはオーストラリアのバンドで このバンドも男女ヴォーカルですが
ここでは男性ヴォーカルが音程がうまくとれていないないけれど そんなの気にせず歌ってしまっていて
手作り感覚を放っています。 この「手作り感覚」・・・今の僕の気分でいくと「良い雰囲気」ですね。

いや 1970年代のアマチュアに毛の生えたようなレア・フォークにも手作り感覚っていうのはあるけれど
1980年代以降のギター・ポップ・バンドの手作り感覚はレア・フォークのそれとはまた違うんだよなぁ。
うまく音程をとれなくても歌うとか うまく演奏できなくても演奏するとか 録音状態にメジャー感が無いとか
基本項目は一緒でもそれぞれの時代の空気を放っていてそれぞれのかほりを匂わせてくれてるのです。

初期から在籍組みのオーキッズは相変わらず泣き虫なヴォーカルが泣かせてくれるし
シー・アーチンズは相変わらずサイケデリックな世界にじわじわと引き込んでしまう魅力があり
B6のセント・クリストファーは 相変わらず楽曲の各パーツの構成が奇妙なくせに感動的!
 


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「FOUNTAIN ISLAND a sarah compilation」 (1992)
英 SARAH 583 (LP)
A1 TRAMWAY Maritime City
 2 HEAVENLY So Little Deserve
 3 EVEN AS WE SPEAK One Step Forward
 4 GENTLE DESPITE Bittersweet Kiss
 5 THE SWEETEST ACHE Sickening
 6 ST. CHRISTOPHER It's Snowing On The Moon
 7 SECRET SHINE Grey Skies

 8 THE ORCHIDS Tropical Fishbowl
 B1 GENTLE DESPITE Shadow Of A Girl
  2 EVEN AS WE SPEAK Must Be Something Else
  3 THE ORCHIDS Pelican Blonde
  4 TRAMWAY Technical College
  5 HEAVENLY Wrap My Arms Around Him
  6 THE WAKE Major John
  7 THE FIELD MICE Between Hello And Goodbye
  8 TRAMWAY Star

さて ここら辺です。 この頃サラ・レーベル及びこのテの音楽の放つ手作り感覚に吐き気をもよおし
4枚目のオムニバス盤「ファウンテン・アイランド」は購入したものの あまり聴きませんでした。

手作り感覚に対する吐き気もさる事ながら 初登場バンドがトラムウェイとシークレット・シャインだけで
目新しさもそれ程無く ジャケットの色が象徴するかのようにセピア・トーンの地味な曲が多くて
元気な曲があまり収録されておらず 静かめにゆったり流れる曲を中心に収録するという
コンセプトだったのかも知れませんが 全体の印象が暗いのも あまり聴かなかった理由かな。

また この時期になると1960〜70年代のロックやブリティッシュ・フォークに興味が移っていて
あまり聴かなかったのかも知れませんね。 今聴き返してみると 言う程悪くは無いけれど
今回取り上げたオムニバス盤の中でも最も輝きが鈍く 今まで徹底的に光り輝いていたオーキッズ
でさえ鈍い輝きにしか聴こえなくて・・・何でしょう 当時インプットされた記憶がそうさせるのでしょうか。

当時インプットされた記憶といえば「ドキッ!女だらけの水泳大会(ポロリもあるよ)」で騎馬戦の際
AV女優チームの一人のビキニから陰毛が数本はみ出しているのを見た事が思い出されます。
・・・まったく下らない事を思い出してしまいましたが もし はじめてサラ・レーベルの音を聴く際
このオムニバス盤を最初に聴いてしまったら不幸な1枚で これがサラ・レーベルか・・・地味だなぁ。
ケッ!となってしまう事うけあいなので「ドキッ!女だらけの水泳大会(ポロリもあるよ)」が
陰毛はみ出し映像でマンネリ化を打破した(のかな?)ようなショッキングな音が欲しかったですね。

・・・って何を言ってるか自分でもまったくわかりませんが 初期から安定して良い曲を放っている
ベテラン(という程のキャリアではないけど)のセント・クリストファーとウエイクが印象に残りますね。
 


EngineCommon.jpg EngineCommonBack.jpg
「ENGINE COMMON a sarah compilation」 (1993)
英 SARAH 628 (LP)
A1 THE HIT PARADE In Gunnersbury Park
 2 THE SUGARGLIDERS Letter From A Lifeboat
 3 THE ORCHIDS Thaumaturgy
 4 THE HARVEST MINISTERS
   You Do My World The World Of Good
 5 BLUEBOY Clearer
 6 BRIGHTER Half-Hearted
 7 THE SUGARGLIDERS What We Had Hoped

 8 THE ROSARIES Leaving
 B1 THE FIELD MICE Missing The Moon
  2 THE ORCHIDS I Was Just Dreaming
  3 THE SUGARGLIDERS Fruitloopin'
  4 BLUEBOY Popkiss
  5 SECRET SHINE Honey Sweet
  6 THE HARVEST MINISTERS Six O'Clock Is Rosary
  7 BRIGHTER End
  8 ANOTHER SUNNY DAY
    I Don't Suppose I'll Get A Second Chance

前作でもういいや・・・という気分だったにもかかわらず惰性で購入してしまった5枚目のオムニバス盤。
当然もういいや・・・という気分だったので ほとんど聴かずに放置プレイ そして放置プレイでした。
この後も何枚かオムニバス盤が出たようですが さすがにもういいや・・・という気分だったので
これ以降は未購入で 気付いたらサラ・レーベル自体ももういいや・・・と終了してしまったようです。

レーベル終了は手作り感覚のギター・ポップに吐き気を覚えた僕と同じような人が多くなりサラの作品が
売れなくなってしまったのでしょうか。 しかしすぐにベル&セバスチャンという手作り感覚バンドが
人気を博し歴史は繰り返されます。 次の世代が手作り感覚の良さを発見して受け継いだのかなぁ。

そう もう廃れたかと思ったルービック・キューブは次の世代に受け継がれいまだに人気の定番商品です。
そう考えると再びテレビ画面に林真理子や志茂田影樹が頻繁に登場する日も近いと考えた方がいいし
野茂のトルネード旋風が再び吹き荒れる日も近いと考えるのが普通です・・・ん? 普通か?

さてこの5枚目のオムニバス盤「エンジン・コモン」は前作の「ファウンテン・アイランド」と割と近い路線で
アコースティックで静かめにゆったりとした曲が多く 新しいバンドを中心に 復活組のヒット・パレード
ベテラン組のオーキッズやアナザー・サニー・デイと 地味だけど前作よりは良い曲が多い感じです。
弾き語りに近いかたちのフォークっぽいのが何曲か入っているのも効いていますねぇ。
ただエレ・ポップしてしまうB1はあまりにも今までのフィールド・マイスと違い腰を抜かしてギャフンです。

デモ音源かのようなフォーク・アレンジで聴かせるA1のヒット・パレードから胸に染みてきますし
B8はアナザー・サニー・デイの可愛らしいフォーキーな曲で 最初と最後の素敵なサンドイッチ作戦です。

さて オムニバス盤5枚を並べてみて気付いたのは 収録されている曲が全部バンドだという事。
5枚で全80曲あるのでソロ・アーティストの1人や2人いても良いはずですが これが1人もいないんだ。
アナザー・サニー・デイなんかは実は1人プロジェクトなのだけど ソロ名義じゃないし
徹底してバンドにこだわっていたレーベルなんだなぁと その美しさと頑固さに感動しています。

凄く良い曲を書くアナザー・サニー・デイ じわりとサイケデリックな雰囲気が魅力的なシー・アーチンズ
泣き虫フォーク・ロックが胸に沁みるオーキッズ 絶妙な楽曲構成に興奮するセント・クリストファー
特にこの4バンドは今聴いてもヒジョーに良いので 何かきっかけがあれば再浮上しても良さそうです。
つまり野茂のトルネード旋風が再び吹き荒れる日もそう遠くないという事ですよ!






えーと 手元に残っているサラ作品を全部書こうと思ってジャケット写真は撮ったけど何か疲れてきたので
もうここでやめます。 この疲れは更年期障害でしょうか・・・もちろん尿の切れも悪いです。
でも写真は撮ってしまって 悔しいのでジャケット写真は載せておきます。 適当に並べて順不同です。
いつかまた気が向いたらこれらの作品も書こうと思いますが 尿の切れが悪いので気が向かないかも・・・ 
CrushTheFlowers.jpg
The Wake
Crush The Flowers (7")
Stardust.jpg
The Sea Urchins
Stardust (LP)
EpicureanASoundtrack.jpg
The Orchids
Epicurean : A Soundtrack (LP)
Coastal.jpg
The Field Mice
Coastal (LP)
Bacharach.jpg
St. Christpher
Bacharach (10")
StrivingForTheLazyPerfection.jpg
The Orchids
Striving For The Lazy Perfection (LP)
LondonWeekend.jpg
Another Sunny Day
London Weekend (LP)

 
AllOfATremble.jpg
St. Christpher
All Of A Tremble (7")

 
FeralPopFrenzy.jpg
Even As We Speak
Feral Pop Frenzy (LP)

 

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